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三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」感想—前向きになれる作品

作品情報

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

本作の登場人物について

 本作は、非常に魅力的な登場人物たちが織りなす物語で、とても生き生きした物語だと感じました。

 主人公の多田は、ぶっきらぼうなところがあるけれど、基本的には気配りのできる優しい人でしたね。預けられたチワワを飼っていた女の子に会うために、わざわざ遠くの町まで車で行ったり、その子がチワワに会う手助けをしてあげたり。

 多田の行天に対する扱いはかなり雑ですが、いきなり事務所にそれほど仲良くない奴が住み始めたら、普通はこんな対応になるでしょう。それに、行天の怪我に対する負い目を踏まえれば、彼なりに良く振舞っているのではないかと思います。

 本作で一番好きな登場人物は行天です。行天は疲れる事が嫌いで、いつもはトラブルを避けたがりますが、いつも多田に巻き込まれて結局トラブルの解決に協力します。偽計を用いたり、暴力を振るったりと割と自由に行動していますが、トラブル解決能力はピカイチです。基本的に、依頼者にとって最善の解決策を取りますしね。

 この二人のコンビネーションが良いですよね。他人に対して優しさがあるけれどなかなかトラブルを解決できない多田と、トラブルを回避したがるけれど、うまいことトラブルを解決する行天。二人が組み合わされば、怖いものなしといった感じです。

 脇役も個性的な存在が揃ってますよね。例えばルルは......とりあえずインパクトが非常に大きいですよね。この人。おそらく日本人なのに、いきなりコロンビア人を名乗るあたり、かなりぶっ飛んでますよね。

本作のテーマについて

 そんな登場人物たちは、「すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」(325頁)「幸福は再生する」(345頁)という大きなテーマの元に物語を紡いでいきます。

 誰しもあると思います。ああすれば良かった、こうすれば良かった。あの日あの時ああしていれば、今はもっと違う状態だったのではないかと。僕も、あの日僕が適切な行動をとっていれば、あの子はまだ僕の側にいたのではないかと、ごく稀に考えたりすることもあります。まあ、考えたところで意味がある訳ではないですが。

 そんな思いを抱いている僕にとって、本作のテーマはある種の救いでした。

 そんな本作のテーマが一番現れていたと感じたのが、行天が、多田が行天の指を切断した原因を作った事を気にしていることについて、多田に話しかけたシーンです。

「ばかだなあ」
行天は笑い、軽トラックの窓を細く開けた。 「あなたが噛んだ小指が痛い~」(264頁)

 取り返しのつかないことだったとしても、ひどい事をしてしまったとしても、修復しうる。仮に修復できなくとも、幸福が再生するチャンスは常にある。

 本作を読んで、少しばかり、人生に対する見方が前向きになったような気がします。