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ネタバレ感想やらなんやらを気ままに書いています。

映画「タクシードライバー」とアメリカの銃規制問題

作品情報

監督:Martin Scorsese

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 この間、初めて映画のタクシードライバーを見ました。映画そのものは非常に憂鬱でしたが、とても印象的な映画でした。

 その中でも印象に残ったのがトラヴィスが銃を購入し、使い方を練習するシーンでした。このシーンを見て、アメリカの銃規制の問題について、違う側面から捉えられるようになったように思います。

米国の銃規制問題

 まず、アメリカの銃規制問題について、軽く振り返ってみましょう。

 アメリカでは、銃の乱射事件の度に銃規制の必要性が叫ばれつつも、なかなか銃の規制そのものにはつながらないということを繰り返しています。

 最近で言えば、2018年2月にフロリダ州の高校で痛ましい乱射事件が起きました。その後、その事件を生き延びた高校生たちが"Enough"というスローガンを掲げながらデモを行っていましたが、これが銃の所持の規制につながる見込みは、今のところなさそうです。

 米国で銃規制が進まない理由としては、いくつも挙げられます。例えば、アメリカ合衆国憲法修正第2条が武器の所持を認めているとか。全米ライフル協会が極めて強い政治力を持っているとか。アメリカにおいて銃はありふれた存在になってしまっており、自己防衛のためには銃を持たざるを得ないとか。

 しかしながら、それらの理由よりも根本的な理由があります。それは、積極的に銃を持ちたいと願う人が数多くいるということです。そもそも、そのような人々が居なければ、銃規制に反対する勢力が、ここまで強力になるはずもありません。

 日本に住んでいる僕は、今までそのような人々の気持ちについて、なかなか想像してみることはできませんでした。狩猟用の銃なら分かります。また、ギャングが銃を買うのも分かります。しかし、なぜ普通の人が対人用の半自動ライフルなどを買おうと思うのか、理解ができませんでした。

 普通に考えれば、誰かが銃を乱射したタイミングで手元の銃で反撃し即座に無力化できることなんてそうそうある訳もないですから、銃のない世の中の方が、銃のある世の中よりも安全なのは分かり切っています。それなら、普通の人にとってみれば、銃を買うよりも銃規制に反対する方が理にかなっています。それに、銃を買うのにもお金がかかりますしね。

 銃自体にかっこいい要素があるのは認めます。でも、それを体験するのはゲームの中で十分です。

 このように、こんなに乱射事件が起こるのであれば、銃そのものの規制をすればいい。それについて、たいしてデメリットはないし、反対するような強い理由もないように思っていました。

 本作を見るまでは。

タクシードライバー」と銃

 「タクシードライバー」に話を戻すと、主人公のトラヴィスは、物語の冒頭でタクシードライバーの職を手に入れます。本作においては、タクシードライバーは決して望ましいとは言えないような職業のように描写されていたように思いました。また、トラヴィス自身も、周りとなじむわけでもなく一人孤独に生きています。まとめれば、社会の中でも下層に居るのがトラヴィスという訳です。

 そんな中でトラヴィスはベッツィーに出会います。ベッツィーとの出会いはトラヴィスに一時満足感を与えました。

 しかし、トラヴィスは物語の途中でベッツィーに振られてしまい、絶望に陥ります。タクシードライバーの日々変わらない繰り返し。私生活でも誰と仲良くなるわけでもなく、どん詰まりの日々を送ります。そんな中、トラヴィスは何かを成し遂げたいという気持ちを強く持つのです。

 本来、社会の下層にいるトラヴィスが、突然何かを成し遂げられるわけはありません。政治的な権力を持っているわけでもなく、人脈がある訳でもない。お金を持っている訳でもない。トラヴィスは、誰かに対して影響力を発揮できるような状態にないのです。本来ならば。

 しかし、それを可能にしたのが銃だったのです。

 銃は人に強さを与えます。銃の持ち手は、相手を傷つけ殺し、あるいは脅して命令できるという意味で大きな影響力を発揮できます。それが正の影響なのか負の影響なのかは別として、まるで変身ベルトのように、銃はトラヴィスに本来ならばあり得ない力を与えたのです。少女をギャングから救う英雄になる力を。あるいは、大統領候補を暗殺する稀代の悪党になる力を。

 銃を購入し楽しそうに銃の練習をするトラヴィスを見て、銃の魅力はこれなのだと気づきました。

 どん詰まりの状況からの逆転。他人からも無視されるような存在でも、銃を購入すれば簡単に他者を傷つけ、思うがままに命令できる力を手に入れることができるのです。弱者から強者への変身が、銃により可能になるのです。

 その後、逮捕されたりといったおそれはありますが、後先考えられる状況でなくなった人にとって見れば、それは大した問題にはなりません。本作において、トラヴィスが大統領候補のパランタイン上院議員を殺害しようとしたように。あるいは、ギャングを殺したように。

 今の状況が恵まれていなければいないほど、現状に不満を持てば持つほど、銃がもたらす力は一層魅力的になるのだと、本作をみて思いました。

まとめ

 本作を見た後でも、銃規制は必要であるし銃の所持は認めるべきではないと思います。

 しかしながら、銃は人にこのような「力」を与えるのだと、そしてそのような「力」を欲してやまない人々が居るのだと、本作のおかげで実感できるようになりました。