作品情報
- 作者: 村上道夫,永井孝志,小野恭子,岸本充生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/20
- メディア: 新書
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評価
☆☆☆(最高評価は☆5つ)
レビュー
みなさんは、基準値というものの存在を意識した事があるだろうか。身近なもので言えば、賞味期限や消費期限。水道水に含まれる物質の制限値、大気汚染の基準値など。これらのものは、いつまで美味しく食べられるか・どの程度の時間・量までなら安全かといった数値を定めている。
その基準値について詳述しているのが本書である。様々な基準値について、なぜその数値が基準値となったかについて、わかりやすく説明してくれている。
本書を読んでいて気づいたことが2つある。
1つは、基準値とは様々な用途で使われるものであり、特定の基準値についてその意味を理解するためには、結局その分野について知る必要があることだ。例えば、賞味期限と放射線の許容量の基準値は、全く性質が異なるものであり、基準値だから信頼できるというものではない。結局、その基準値が策定された背景・データを検討しなければ、その基準値が妥当なものか否かは分からないのだ。
本書で挙げられている例の1つが、インフルエンザの出席停止日数である。現状は、発症して5日間は出席ができなくなっている。しかし、この日数の根拠となった実験は、被験者がわずか19人しかいなかったのだ。(本書224-225頁)このように、基準値の根拠は時に薄弱となりうる。
もう1つは、基準値は純粋に科学に基づいて判断されるのではなく、多くの事情を考慮した上での判断を要求されるものだということだ。本書によれば、基準値はゼロリスクを保証するものではなく、ある程度のリスクを許容している。(16-17頁)ゼロリスクにする事が困難であったり、ゼロリスクにするために多くのコストがかかったりすること等がその理由である。そして、基準値を設定する側は、設定しうるいくつかの基準値の中から、適当と思われる基準値を選び出すのだ。
安全を追求するために、なるべく厳しい基準値を設定すれば良いと考える人もいるかもしれない。危ないかもしれないならば、なるべくそのリスクを小さくすれば良いのではないかと。しかし、本書は厳しい基準値が、必ずしも良い結果をもたらさない事を指摘している。例えば、福島の原発事故により避難指示された地域は、追加被曝線量が20mSv/年まで下がらなければ、避難指示を解除することはできないという要件がある。(194頁)しかし、この線量は高ければ高いほど人体の安全にとって良いから、できるだけ高くすれば良い、という話にはならない。なぜなら、あまりに高い数値にしてしまえば、避難した住人が避難指示を解除され故郷に戻る事が事実上不可能になってしまうからだ。
結局のところ、基準値は便利な数値ではあるが、その妥当性は常に疑ってかからなくてはならない。それが、僕が本書を読んで得た教訓である。
本書は、このような基準値についての理解を深める事ができる、おすすめの書籍だ。