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遠い日の白虎刀─あるいは木刀に恋焦がれた男子小学生の修学旅行の結末

今週のお題「修学旅行の思い出」

 男子小学生は刀が好きだ。丸めた新聞紙で刀を作ればそれだけで大喜び。日常が非日常へと変わり、世界がドキドキわくわくしたものへと変わる。幼き日の僕も、他の子と変わらず、刀というものに対して強いあこがれを抱いていた。新聞紙の刀一本で、テレビの中のヒーローになったような気分がしたものだ。

 しかしながら、新聞紙の刀というものは、当たり前ながら脆い。友達と戦えば、すぐに折れる。幻想の世界は、シャボン玉のように、簡単に吹き飛ばされてしまうのだ。

 そんな新聞紙の刀と、兄が修学旅行で買ってきた白虎刀は違った。白虎刀はしっかりとした木でできていて、新聞紙の刀といくら戦っても折れることは決してなかった。おまけに鍔までついている。そんな格好良い白虎刀を兄は貸してくれなかったが、兄と遊ぶときに振り回される白虎刀を見て、僕の憧れは少しずつ高まっていった。

 やがて小学六年生になり、兄と同じく会津への修学旅行に出発した時には、僕の心は固く決まっていた。僕も、白虎刀を買って帰るぞと。あの思い焦がれた白虎刀を今こそ手に入れるのだ。

 僕が参加した修学旅行は、今になって思えば、練りに練られた多彩な予定があったのだと思う。でも、僕はそんな修学旅行の予定を、これっぽっちも気にしていなかった。思い出せるのは、白虎刀のことを除けば赤べこを作ったことぐらい。それぐらい、自分の中で、「会津への修学旅行=白虎刀を買う」というような等式が完成していた。

 そんな修学旅行の予定を消化して、待ちに待ったお土産を買う時間が訪れる。初夏の強い日差しの下、僕も他の友達と同じく、白虎刀が売っている店へと急いだ。

 そこで目にしたのは、家で見たものよりもずっと大きな白虎刀。僕は驚いた。タグを見ると、白虎刀(中)との記載がある。その近くには、兄のものと同じサイズの白虎刀。そこには(小)と書かれていた。なるほど、兄の白虎刀は一番小さいサイズのものだったらしい。

 おそるおそる中サイズの白虎刀の値段を確認する。僕は安心した。その白虎刀でも十分手に入る値段だった。

 一息ついて、僕はにやりと笑う。兄のものよりも、ずっと長くてすごい白虎刀を買うことができるのだ。僕はさっさとお金を払うと、買った白虎刀を眺めた。何年も何年も欲しかった白虎刀を手にしながら、心の隅から隅まで、余すところなく満足感で一杯だった。

 しばらくして、お土産を買う時間は過ぎ去った。長かった修学旅行も、もう終わりである。先生の指示に従って、帰路に着く貸し切りバスに乗り込みながらも、僕は家に着いたらこの白虎刀で何をしようかとばかり考えていた。

 窓側の席に座り、僕は長い白虎刀を窓枠と座席の間に差し込んで固定した。これで、手で支えていなくても、立てかけた白虎刀が倒れる心配はない。

 バスの車内は少し暑かったが、そんなことは気にならなかった。僕は今、あんなに憧れた白虎刀を持っているのだ。その他に気に掛けることなど、何があるだろうか。

 しかしながら、僕の前の座席には座った友達は違ったようだった。車内の暑さに耐えられなかった彼は、窓を開けるために、勢いよく後方へとスライドさせた。

 その時、絶妙な角度で窓枠と座席に挟まれていた僕の白虎刀から、乾いた木が折れた時に特有の、メリっとした音が聞こえた。