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ガルシア・マルケス「百年の孤独」感想

作品情報

評価

☆☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)


※以下は本作のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本書を読み始めて最初に抱いた感想は、「余白が少ないな」というものだった。圧倒的な情報量、幻惑的な物語。チョコレートで人は宙に浮き、数千人の虐殺はなかったことにされ、男と女は休む間も無くまぐわう 。アルカディオ、アウレリャノ、アマランタ。多くの登場人物が、この物語の中で生まれ、生き、死んでいく。螺旋のように紡がれていくストーリー。結局のところ、本書で何が描かれたのか。それすらもはっきりとは分からなかった。本書の中で、マコンドの街は生まれ、そして滅んで行った。超常現象により全てが支配されていた街に、次第に文明が導入されていく。自動ピアノ、選挙、ダンス、ファッション。権利を求める労働者たち、それを弾圧する経営者たち、軍の介入、虐殺。孤独を愛する者、孤独にならざるを得ない者、それに巻き込まれていく者。マコンドの街の中で、ブエンディア家の人々は、1日1日を生きていた。

 本書は、開拓の祖から連なる孤独を最後の子孫が愛により打破したという物語と読めなくもない。しかし、アウレリャノとアラマンタ・ウルスラ以外の者たちも愛し合っていたのではないかという解説の指摘はもっともである。愛のある行為があり、愛のない代償行為があり。時に寄り添い、時に離れて。多くの者の関係性は、完全に切れることもなく、移ろい続ける。しかし、一つ確かだったものは死である。死により関係性は固定され、永遠と動くことはなくなる。数多くの過去でさえも、時の移ろいの中で消えていく。歴史は、記録は、記憶は全て塵に帰り、ただ一家の歴史を記録した羊皮紙だけがふわりと残る。愛だとか、愛でないとか、一刀両断に断じることのできない曖昧な関係性に、本書は満ちているように思った。

 そう、全てが曖昧なのだ。本書は。魔術的、神話的に進んでいくこの話に、簡略な命題があったようにも思えない。孤独と愛、それの関係性を短絡的に描いた作品でないことは先に書いた通りである。含まれているのは、数多くの人生と歴史。細々として雑多で一貫性のない、されど魅力的な小話の断片が、本書から人の一生というものが何なのか、孤独という病とは何なのかということを、マコンドに降りしきる雨の中で教えてくれているように感じた。