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大今良時「聲の形」—僕は本作の登場人物の多くが嫌いです。

作品情報

聲の形(1) (講談社コミックス)

聲の形(1) (講談社コミックス)

 なお、本作はアニメ映画化されました。

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

本作の登場人物について

 僕は、本作の登場人物の多くが嫌いです。西宮硝子に対していじめを行って深く傷つけた石田。それに乗じていじめに加担した植野。いじめの全て原因を石田一人になすりつけ、石田をいじめ始めた島田・広瀬。教師であるにも関わらずいじめを見て見ぬ振りをした教師の竹内。

 ただ、これらの人物の中でも、一番苦手だなと思ったのが、川井です。石田らの行動を見て見ぬ振りをしたり、時には同調しておきながら、問題が起きた瞬間に手のひらを返す。作中の言動を見ていても、他人のためというよりも、自分の保身のため、常に自分本位に生きている人物であるように見て取れました。

 明らかに、石田らの方が、直接的には西宮を深く傷つけている。それにも関わらず、川井が一番嫌で苦手なキャラクターだなと思ってしまう。何でだろうと、少し考えて見たのですが、おそらくこれはある種の同族嫌悪なのでしょうね。

 自分の記憶の限りでは、そして主観的には、自分自身が積極的にいじめを主導したという経験はありません。しかし、まさに川井のように、周りと同調する形でいじめる側に加担した事が少なくとも何度かあったように思います。だからこそ、川井に対してより強い嫌悪感を抱くのでしょう。

 そういう事を踏まえて見ると、僕自身も本作の登場人物を断罪できるような、お綺麗な立ち位置にいる訳ではない事がわかります。だからこそ、本作を読んでも、登場人物たちは最悪な事をしたんだと、一刀両断に割り切る事はできませんでした。読み終わったのに感じたのは、過去の自分のしてきた行いに対するモヤモヤ感と、それにも基づく登場人物への嫌悪です。

西宮硝子の石田に対する想いについて

 さて、本作のストーリーに目を向けると、実際にありそうな話ではあるなと思いました。障害を持つ子が転入してきて、それによってひどいいじめが起き、それがまた別のいじめに波及すると。

 ただ、本作の展開で一つだけ違和感がありました。それは、西宮の石田に対する反応です。特に、途中で石田に好きですと告白するシーンは、石田に対する好感度が何でそんなに上がりうるのかが、初読時は不思議で仕方がありませんでした。

 前提として、石田は西宮に対するいじめの主犯格でした。そして、高校生になって西宮と再会した後にやった事と言えば、ノートブックを渡したこと、川に落とされたノートを西宮と一緒に探したこと、手話を覚えたこと、西宮の妹を助けたこと、佐原を連れてきたこと、猫のポーチをあげたこと。やったことの酷さに比べたら、これらの事をやったところで些細なことのようにも思えます。これだけで、人を好きになるような事はなかなかないのではないかとも思えます。

 ただ、以下のように考えれば、ありえない話ではないのかなと考え直しました。根拠は2つあります。まず、西宮はいじめられることについて、石田が悪いというよりも、むしろ自分が悪いとのスタンスでいたのではないでしょうか。2巻の138頁では、結弦が硝子は自分が悪いと思っていたから怒らなかったのかなという発言をしています。6巻で明らかにされる西宮から植野に対する手紙でも、自分に自信がなかったことやクラスメイトに対して迷惑をかけていたと考えていた事を告白しています。また、7巻において橋で石田と出会ったシーンでも、人間関係を壊したことについての罪悪感を語っています。

 自分に自信がないからこそ、迷惑をかけるを自分はいじめられても仕方がないと誤った思いにとらわれてしまったのではないでしょうか。

 いじめの対象が西宮から石田にシフトした時に、石田を助けるような行動をとった理由は、このような背景があったからではないでしょうか。その後の石田と西宮が取っ組み合いをしたシーンでも、喧嘩の後の西宮は、笑ったような顔をしていた事も(怒った顔とも見える微妙な顔ですが)、石田に対する気持ちが憎しみや悪感情だけではなかった事を示唆しています。

 もう1つは、現在の西宮の人間関係がそこまでうまくいっていなかったのではないかという点です。4巻で、結弦が西宮硝子について、それまで家でぼーっと本を読んでいたのが、4月から明るくなり、様々な表情を見せるようになったと言っています。裏を返せば、石田と再会するまでの硝子は暗く、他人と過ごす時間がそれほど多くはなかったのでしょう。そんな硝子に対し好意を向けてくれ、上記のように自分に良くしてくれると石田の事が、どんどん好きになっていったということなのではないかと思いました。

本作のストーリーについて

 本作は、色々な見方ができる問題だと思います。罪と罰、そして救済を扱った物語と見ることもできる。聴覚障害者の方の現実の一片を切り取った作品とも考えることもできる。また、作者が公式ガイドブックで語っているように、コミュニケーションを取り扱った物語とも言える。そして思ったのが、どのような切り取り方をしても、本作は素晴らしい作品だなということです。

 読み終えて、改めて考えてみても、僕は登場人物のほとんどが好きではありません。しかしながら、人は自分自身を見つめ直して変わる事ができる。あるいは、そのまま変わらないままでいることもできる。罪は罪で消える事はないけれど、死なない限りにおいては、どんどん変わる事ができ、ひどい事をした/された当事者もまた笑い合う事ができる。

 素敵ですね。