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村上龍「限りなく透明に近いブルー」感想

作品情報

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2009/04/15
  • メディア: ペーパーバック

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、有名作なのでずっと前から読んでみようと思っていた作品でしたが、想像以上に衝撃的な作品でした。「限りなく透明に近いブルー」というタイトルから、爽やかな作品を想像していましたが、それとは真逆のドラッグ・性・暴力にまつわる過激なお話で読んでいてびっくりしました。

主人公のリュウについて

 まず、主人公のリュウが奇妙な作品ですよね。文庫本の解説を書いた綿矢りささんも指摘していましたが、「暴力とドラッグにまみれた異常な世界を彼は普通の世界のように眺め続け」ています(160頁)。

僕は新聞を丸めて皿を割らないように注意し、調理台に移ったゴキブリを叩き殺した。(中略)ゴキブリの腹からは黄色い体液が出た。調理台の縁に潰れてこびりつき、触覚はまだかすかに動いている。(13頁)

 ゴキブリを叩き殺す事は普通にある事かも知れません。ですが、殺されたゴキブリをこんなにもまじまじと観察するというのは. また、リュウは口の中にペニスを入れられても、その観察をやめるそぶりも見せません(69頁)。心のON、OFFを切り替えるスイッチが壊れてしまっているような印象を受けます。彼は清濁に関わらず、常に周りを受け入れ観察し続けているのです。

本作のストーリーについて

 さて、本作のストーリーに目を向けて見ると、はっきりとは分からない作品ですよね。限りなく透明に近いブルーという色のように、はっきりとした色の内容な作品だと感じました。芥川賞の選評やら色々な感想記事やらなんやらを見て見ましたが、どことなくしっくりこないというものが多かったです。

 ただ、せっかくなので、よく分からないと諦める前にストーリーについて考えてみましょう。本作のエンディングから見てみますと、本作のタイトルの文を含む以下の部分が見つかります。

限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。そして自分でこのなだらかな白い起伏を映してみたいと思った。(157頁)

 このガラスとは何かというと、僕が割ったガラスコップの破片であり、「黒い鳥」を殺すために僕が自分の腕を刺すのに使った血のついたガラスです(154頁)。

 では、黒い鳥とは何かというと、リュウが見ようとしているものを隠してしまう、人が住んでいない「あの町」です(154頁)。また、黒い鳥はリュウのことを押しつぶそうとしています(152頁)。また、リリーが伝えた物語では、色々な事があってうんざりしてとても孤独だった男(144頁)はその鳥を殺すためにミサイルを打とうとしたとリュウは解釈しています(154頁)。これらの事からすると、「黒い鳥」とは、リュウの事を(精神的に)押しつぶそうとする色々な出来事*1をもたらす抽象的な町という存在そのものを指すのではないでしょうか。

 そして、白い起伏とは町の稜線の起伏を表します(156頁)。町=黒い鳥の外側にある部分ですね。

 以上の事からすれば、引用した157頁の部分は、リュウが、(精神的に)押しつぶそうとする色々な出来事をもたらす抽象的な町という存在を殺し、その外にある物事を見せてくれるような存在になりたいと思ったという事を表しているのではないでしょうか。自分に降りかかる不合理をそのまま受け入れるのではなく、それに対し反抗しそれを取り除き、それ以外の物事を周りに見せられるような存在に。

 まとめれば、本作はただただ周りを観察する事しかできなかったリュウが、不条理な町に徐々に押しつぶされそうになり、それに対し反抗し戦おうと思うまでを描いた作品だったと感じました。

*1:例えば空虚な人間関係や女装させられてペニスを口の中に入れられたという出来事