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ジョージ・オーウェル「動物農場」感想

作品情報

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)  

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、どうぶつたちが会話する平和な作品と見せかけて、そこで語られるのが暴力による革命、政治的対立、平等に見せかけた不平等というシニカルな作品で、非常に面白かったです。

 当初は、動物目線に立った動物愛護的な作品かと思っていました。厳しい窮乏に絶えざるを得ない動物たち。先代の理想にしたがって蜂起し、勝ち取ったのは勝利。そして、動物たちは幸せに暮らしました。めでたしめでたし。一瞬、そんな筋が頭をよぎったものです。しかしながら、ジョージオーウェルがそんな単調な作品を書かないだろうと思っていたら、案の定スノーボールが権力闘争に破れて農場から退避していきました。

 だんだんと暗雲が立ち込める物語。困窮に向かっている現状を覆い隠すプロパカンダが登場し、スノーボールの功績が抹消されてきたあたりで、これがソ連をはじめとする共産主義をモチーフにしていることに気づきました。当のオーウェルもそれを意識していた事が、オーウェルが書いた動物農場の序文案から分かりますね。*1特に、登場人物のスノーボールとナポレオンは、それぞれトロツキースターリンがモデルとなっています。(本書189頁)

 本書を読みながら、オーウェルの目論見通り、ソ連共産主義って恐ろしいなと感じました。平等を謳っていたはずなのに、気づけばブタや犬という特権階級が出てきたり。決めたはずの掟がどんどん特権階級に有利になっていったり。外敵を持ち出してあらゆることを正当化したり。歴史がどんどんと修正されていったり。当初の理想が塵芥となってディストピアが広がる様は、共産主義という存在が身近にはない自分にとっても、十分に恐ろしいものでした。

すべての動物は平等である。だが一部の動物はもっと平等である。(147頁)

ALL ANIMALS ARE EQUAL
BUT SOME ANIMALS ARE MORE EQUAL THAN OTHERS.

 全てをバカにしたようなこの一節が、動物農場の恐ろしさを綺麗に写しとっています。

 しかしながら、読み終わって考えてみると、本書は共産主義のみを語った作品ではないなと感じました。前掲書の解説にもあるように、本書をソ連による共産主義を批判したものと捉える見解、社会主義一般を否定したものと捉える見解、ある種の権力のあり方全てに対する批判だと捉える見解などがあります。(本書200-202頁)その中でも、自分の感想に一番近いと感じたのが、最後の見解です。

 本書の冒頭、動物たちによる革命が起きた段階では、全ての動物たちは平等でした。しかしながら、もっともらしい理屈をつけて、ブタは徐々に特権の獲得を企図し、実際にそれを獲得していきます。おそらく、当初ブタが動物たちを主導したのは、理想に燃えていたからのことでしょう。しかし、一度甘い蜜を舐めてしまうと、どんどんそれが欲しくなってしまっているのでしょう。この点は、人間もなんら変わりないのではないかと思いました。

 そして、ブタが他に優先されるという不平等さに慣れた段階には、もはや取り返しのつかないことになってしまっています。いくら平等というお綺麗なお題目を持っていたとしても、それを守るために皆が行動しなければ、本作の動物たちのように虐げられる可能性がある。だからこそ、確かな情報に基づく権力者への批判が常に必要なのだ、という事が本作のメッセージになっていると僕は感じました。

*1:前掲書156頁以下に序文案が掲載されています。