作品情報
監督:ジョン・カーニー
評価
☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
主人公の元彼のデイブ、やたらと歌がうまくてマルーン5のアダムに似ているなと思ったら、まさかの本人でした。びっくり。女性をたぶらかす大人気のポップスターという役柄が妙にはまっていましたね(本人の雰囲気そのまんまです。)。さすが2013年の最もセクシーな男性に選ばれただけあります*1。他の役者陣もナチュラルな演技をしていて、とても良かったです。
物語のストーリーに目を向ければ、なんとも爽やかな作品でしたね。デイブに振られて失意の状況にあったグレタが、音楽の力も借りつつ一人の個人として復活する。デイブに見切りをつけたグレタの姿は、なんとも頼もしく見えます。自転車を漕ぎながら微笑んでみる姿は、落ち込んだときのグレタよりもずっとずっと素敵に見えました。
ところで、本作の原題は"Begin Again"、すなわち再び始めるというものです。本作では、様々な"Begin Again"が描かれています。例えば、プロデューサーのダンが会社を辞め、また復帰するのも"Begin Again"です。その中でも大きく取り上げられていたのが、①グレタがデイブとの関係を断ち切って一人の人生を再び始めるというものと、②荒廃したダンの家族関係が修復され家族としての生活を再び始めるというものでした。
この2つは、全く逆の内容であるにもかかわらず、両方ともがポジティブに描かれているのが面白いところですよね。関係を断ち切ってのBegin Againと、関係を修復してのBegin Again。どちらかが良いという訳でもなく、どちらでも良いんだというように、本作は語りかけているように思います。
ではなぜ、本来ならば正反対に思えるこの2つのBegin Againがポジティブに捉えられるのでしょうか。このうち、②のBegin Againについては、それが良いものだとわざわざ力説するまでもないでしょう。
①は?確かに、デイブは浮気をするような人間で、そんな人間と別れたほうが良いというのも1つの考え方でしょう。しかし、グレタは、そのことを踏まえた上で、デイブとまた会っています。まだやり直す可能性を残そうとはしてはいた訳で、そんな状況でデイブとよりを戻すこと自体はグレタにとって善とも悪とも言えないでしょう。対等な関係で、デイブとの状況を再び始めることも可能だったことでしょう。
私が最後にグレタがデイブとの関係を見切りつけた時に、非常にポジティブに感じたのは、それが彼女たちの信念に基づくものだったからでした。そもそも、グレタがデイブを見限ったのは、ライブでのLost Starsの演奏中でした。その理由を読み解く鍵は、それより前のシーンにあります。グレタはデイブに対してLost Starsをポップ調にすることに反対していたのに対し、デイブはそれは仕方のないだと言います。音楽において、大衆向けのものであるべきか、そうでないべきかなどは一概に決められるものでもなく、どちらにも良いところがあります。作中のLost Starsを聴き比べても、甲乙付け難いのと同様に。
そんな状況の中で、グレタもデイブも、己の信念を曲げません。デイブはデイブで妥協することなくアレンジバージョンを歌いきり(グレタが訪れたライブに限ってアコースティックバージョンを聴かせることは簡単にできたでしょう。)、グレタはそのデイブを見て自らの考えに従ってデイブを見限る。だらだらと関係を続けるのではなく、それぞれの信念に従ったBegin Again。だからこそ、私は本作に爽やかさを感じたのです。
- 発売日: 2015/10/07
- メディア: Blu-ray