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村田沙耶香「コンビニ人間」感想ー常異常常常異常

作品情報

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、コンビニの情景が徹底徹尾リアルに描かれていて、最初から最後まで圧倒されっぱなしでした。例えば、「コンビニエンスストアは音で満ちている」という冒頭の一文。今まで意識した事のなかった、考えてみれば確かな事実。最初にこの文を持ってくる事で、このような事実に注意を向ける語り手(=古倉)がどのような人物であるかを表した名文だと思います。最後まで読んだ後でも、古倉のイメージとこの一文はぴったりと重なりました。コンビニで働いた経験がある村田沙耶香さんだからできる*1、鮮やかな芸当でしたね。

 このようなリアルな情景で描き出されるのは、古倉という「異常」な存在。社会における暗黙なルールを汲み取るのが苦手な古倉の思考や行動は、「異常」なものように思えてしまいました。赤ん坊を静かにするのはナイフを使えば簡単なのにと冷静に考えるシーンとか特に。

 ただ、世の中には常識とされているものを察するのが苦手な方がいる事を考えれば、古倉はフィクションの中にしか居ない存在ではなく、「異常」ではあるけれど世の中のどこかには居そうだなと思えるような人物であると感じました。古倉は「異常」一辺倒の存在ではなく、共感できる部分もあるんですよね。死んだ小鳥を食べるのは悲しい事だから食べてはいけないと言いつつ、道端の花を捥いで殺す事の無頓着さについては気にしない人々に疑問を向けるくだりとか。古倉の思考は合理性に基づいているからこそ、納得できますし、時に共感できます。

 本作において、この世の中のどこかに居そうな「異常な」はずの古倉を通じて、「正常な」はずの周りの人々の行動を見ると、そのような人々がどんどん異常に思えてくるのが興味深かったです。僕を含め、人は往往にして人の個人的事情に首を突っ込もうとします。例えば、〇〇はいつになったら彼女を作るんだと煽ったり、友達にいつまでそのバイトを続けるのと質問してみたり。自分の「正常」を基準にして、それから外れた人間を責め立てるのです。周りの人間も似たような事をやっていたからこそ、それ自体について深く考えたりする事はありませんでした。本作を読んで、本来ならばそれは余所事であって、誰も彼もが安易に触れて良いものではないはずだということ、それの異常さについて気づきました。ただ、それらの行為は「正常」なコミュニケーションの1つとされており、時にコミュニケーションに役立つからこそ、なかなかなくならないのでしょうね。

 また、本作を読んで、自分が「異常」の側に回ってしまったらとも考えるようになりました。例えば、結婚も仕事もしないでただ過ごすと言う状況になったら。結局は、かつての古倉と同様、適当な言い訳を言って終わりそうです。周りの人の「正常」の基準を変えるより、自分を周りの「正常」に合わせた方がずっと楽でしょうから。

 そんな自分がありありと想像できるからこそ、古倉が周りの人々の「正常」から外れて、コンビニ人間に戻ろうとした結末は、尊いものだなと感じました。楽な方向に逃げるのではなく、自らの「正常」から外れた生き方を臆せず周りに伝えられる事は、なかなかできない事だと思います。このような人が増えていけば、「異常な」事が「正常」となり、色々な人がもっと生きやすい世の中になっていくのかもしれませんね。

 そんな世の中を作る一助となれるよう、できる事なら、「異常」を異常と決めつけず、常も異常もまとめて受け止められるような、そんな人間になれたらなと思いました。