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「カメラを止めるな」感想:色々な感想が湧いてくる作品

作品情報

カメラを止めるな!  [Blu-ray]

カメラを止めるな! [Blu-ray]

監督:上田慎一郎

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、前編(One Cut of the Dead)、中編(One Cut of the Deadの撮影前)、後編(One Cut of the Deadの撮影)、スタッフロールのそれぞれで、目まぐるしく感想が変わる、とても面白い映画でした。とても低予算で作られたとは思えないクオリティ、熱量で見ていて飽きませんでした。

前編

 最初に前編を見た段階では、ワンカットで撮るという難しいことを達成している一方で、違和感がある場所が散見され、これが低予算で撮影した映画の限界なのかなと思って見ていました。

 そもそも、これだけの長時間ワンカットで撮影するというのは、すごく難しいことだと思って見ていました。当たり前ですが、ワンカットの撮影では、一度トラブルが発生すると最初からやり直しです。例えば、役者が脚本を間違えたり、カメラマンが階段を踏み外したりした瞬間に終了です。

 このような長回し作品として、三谷幸喜監督の大空港2013を以前見たことがありました。この作品と「カメラを止めるな」を比較して見ると、全編を通してワンカットで撮影されている点では「カメラを止めるな」よりも上です。しかし、その代わり「カメラを止めるな」はかなりアグレッシブなカメラワークや仕掛けを用意している点では、大空港2013よりも上だなと思って見ていました。カメラマンが廃墟の中を走り回ったり、カメラのレンズに血糊を付着させる演出をしたりするのは、臨場感を高める上で非常に効果的ではあるものの失敗のリスクも大きく、ワンカット撮影でよく撮影できたなと感心しきりでした。One Cut of the Deadは撮影の技術力という観点からすれば、大空港2013と比較しても劣らないなと思っていました。

 しかし、所々雑に見える展開が入っていたのが残念でした。脈略なく趣味の護身術の話が入ったり、怪我をしていないか確認するシーンで日暮晴美の言動がいきなり雑になったり、なぜか監督がいきなりカメラ目線で話し始めたり、神谷和明が日暮晴美を殺すシーンで松本逢花が叫ぶシーンが無駄に長かったり、なぜか斧が落ちていたり。

 ただ、このうちのいくつかは作品内で説明が付けられていたのは良かったと思っていました。日暮晴美の言動がいきなり雑になったのは、日暮晴美が狂ったためとも取れましたし、加えて彼女の暴走したシーンで趣味の護身術がちゃんと使われていましたね。

 また、ストーリーの観点からも非常に興味深かったです。ゾンビが起きて惨劇が起こるというプロット自体は普通でしたが、本作におけるカメラマンの扱いが非常に面白かったのです。本作において、撮影者たるカメラマンは登場人物から着目され、存在しないように扱われていました。しかし、これと矛盾するシーンがいくつかありました。上述の監督がカメラ目線になるシーンや、カメラに血糊が付く演出、カメラマンがこけるシーン、その場の人間のように着目する対象物を頻繁に変える撮影法は、明らかにカメラマンの存在を強調しています。

 これらについて、One Cut of the Deadを見ている途中に自分が導き出した結論は、こういうものでした。本作は、ゾンビ映画を撮影する映画であるから、カメラマンの存在はメタ的なものであって、登場人物からは認知されない設定になっている。しかし、本作のラストシーン、松本逢花が神谷和明にやられる予定だったシーンで、松本逢花が発狂して演出ではなく実際に神谷和明を殺してしまう。ここでゾンビ映画を撮影する映画の筋から外れて、現実の殺人事件が発生する訳ですね。その後、狂った松本逢花は狼狽する監督をも殺し、本来認知されない設定だったカメラマンを本物の殺意を持って見つめる。安全圏に居たはずのカメラマンが、松本逢花に殺されるかもしれないという本物の恐怖に突き落とされる訳です。そして、同時にカメラマンの視点を通じてこの作品を見て居た自分も、松本逢花に見つめられているような気がして、背筋がぞくりとしました。そして、最後の最後までカメラマンが殺害されるかされないか分からない緊迫した状況で、物語の幕が閉じる。

 なるほど、ゾンビ映画を撮影する映画で起きた殺人事件を扱った作品なのか。そう考えて、これなら高評価されるのも納得の出来だなと思って見ていました。

中編

 One Cut of the Deadが終わって、いきなり作風が変わって驚きました。そんなOne Cut of the Deadの撮影前のパートについては、まず、あんなに熱量のあった監督が、中編に入った瞬間におとなしい人物になっていてギャップにやられました。普通のおじさんにしか見えませんでしたね。

 物語を見ているうちに、この映画はOne Cut of the Deadとその撮影の映画について扱った作品なのだと気づきました。仲が悪く、明らかにうまく行かなさそうなメンバーから、いかにOne Cut of the Deadという映画が生み出されるのかが描かれる作品なのだと。One Cut of the Deadに違和感のあるシーンが散見されるのも、こんなような苦境から始まるのであれば当然ですし、脚本を考えた監督は凄いなと思って見ていました。

 ただ、撮影前の部分については、割と普通な感じでしたね。盛り上がるというよりも、着実に伏線を重ねていく感じが見て取れました。

後編

 One Cut of the Deadの撮影は、想像していたよりも何倍もドタバタしていて笑ってしまいました。アル中のおっさんが暴走したり、目立たない役割だと思って居たカメラマン役の人が腹を壊していたり。謎の会話は引き伸ばしの為だったり。

 また、前編での違和感が見事に回収されて唸らされました。特に、日暮晴美の暴走っぷりが見ていて楽しかったです。あんな人に追いかけ回されたり、攻撃されたりした役者陣は、本当に怖かっただろうなあ。

 そして、そんなドタバタがありつつも、最後にみんなが一つになったことが、最後の人間ピラミッドを作るシーンで表されてて感動しました。伏線が回収されつつ親子の確執もなくなってのハッピーエンド。見ていて気持ち良い終わり方でしたね。

スタッフロール

 スタッフロールでは、実際のカメラを止めるなの撮影シーンが流されていましたね。この部分を見て、本作はゾンビ映画を撮影するフィクションの映画であると同時に、ゾンビ映画を撮影する映画を撮影するノンフィクションであるということに気づきました。本作の登場人物の多くは無名の俳優陣が演じており、低予算映画である以上スタッフも名が知られている人はほとんどいないでしょう。そんな彼らが見所盛りだくさんの大ヒット映画を作るまでの物語ともとれると思った作品でした。

 現実の撮影も難航したらしく、いくつも想定外のトラブルが起きたらしいです。僕が感動したレンズに血糊が付くという演出だと思っていたものも、単に現実に起きたトラブルだったみたいです*1。フィクションが現実と入り乱れており、そういう意味でも非常に面白かったです。

 三谷幸喜監督の大空港2013が、計算づくの緻密な作品であるのに対し、本作は荒々しさが残るが熱量溢れる作品で、これまた素敵な作品だなと思いました。