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映画「複製された男」感想:歴史は繰り返す。

作品情報

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

様々なところで展開されている本作のレビューを読むと、アダムとアンソニーは同一人物であるという解釈をするものが多かった。両者は同じ人間の側面を表しているに過ぎず、アンソニーが有している表立った欲望も、アダムが有しているものと同一だというわけだ。

しかしながら、私は、本作が大人しい存在だったアダムが欲望を開放していき、最終的には性欲に忠実なアンソニーと同一化していく様を描いた作品だと感じた。

本作において、アダムとアンソニーは、作中で完全に同一の人物として描かれている訳ではない。二人は、ブルーベリーの好みなど、細かな点で異なっている。また、アンソニーはアグレッシブな存在であるのに対し、アダムはヘレンに自らの正体を隠したまま一線を越えられないなど、性格も異なる。

そんなアダムは、物語の冒頭からアンソニーを追い求めて、どんどんと追跡を行っていく。これは、アダムがアンソニー=自らの欲望に素直な存在になりたいと願い、そしてアンソニーと同化していくことを表しているように感じた。当初のアダムであれば、アンソニーに入れ替わりを強いられた際に、ヘレンと寝るためにわざわざヘレンの下へと向かおうとはしなかっただろう。けれども、アンソニーによって感化されたアダムは、それならばとヘレンと肉体関係を持とうと画策するのである。

そして、ヘレンの許しもあり、ヘレンと性的関係を持ったアダムは、アンソニーのように欲望に忠実な存在になる。最後のシーンで、アダムがいかがわしい行為が行われていた部屋の鍵を手に取り、ヘレンとみられる女性に嘘をついてまでその部屋に向かおうとしていたのが、それをよく表している。ただし、最終的にアダムは、本作において母性を象徴するクモ=ヘレン*1に絡めとられそうになって終わるのだが。

以上をまとめれば、本作は当初は大人しかった男性が、周りに感化され性に奔放となるものの、最終的に「パンとサーカス」を提供する母性によって絡めとられ支配されるという、一部の男性の人生をシニカルに表している作品のように感じた。これは、数多の時代、数多の男性が通ってきた道なのだろう。まさに、「歴史は繰り返す」ということを表している作品であるように感じた。

*1:例えば、CINEMORE「甘美なカオスに絡め取られる快楽。『複製された男』の謎世界を読み解く」ではこのように説明されている。「分かりやすい手がかりになっているのが、トロントの高層ビル群よりも長い脚の超巨大蜘蛛が悠然と歩くショット。この蜘蛛の造形に既視感を覚えた人も多いだろう。これはフランス出身の彫刻家ルイーズ・ブルジョワの巨大な蜘蛛の彫像シリーズ「ママン」にオマージュを捧げたもので、この像の一体が東京の六本木ヒルズにも展示されている。「ママン」の像の腹部には大理石でできた卵が複数収められている。蜘蛛が「母性」を象徴しているのは明らかで、ヘレンの膨らんだお腹ともイメージが重なる。」