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郡司芽久「キリン解剖記」書評と感想:キリンが好きになる一冊

作品情報

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

書評

 「キリンが、好きだ。」そんな作者の気持ちが本書のそこかしこにあふれているのが、この「キリン解剖記」です。

 「キリン解剖記」という名前からすると、何だかお堅い話だけなのかのようにお思いになるかもしれませんが、そんなことはありません。本書の内容については、作者自身が的確にまとめています。

この本は物心つく前からキリンが大好きだった私が、18歳でキリンの研究者になることを決意し、恩師と出会い、解剖を学び、たくさんのキリンを解剖して「キリンの8番目の"首の骨"」を発見し、キリンの研究で博士号を取得するまでの、約9年間の物語だ。(4頁)

 このように、本書はキリンの研究の紹介をしている書籍という側面を持つと同時に、キリン愛あふれる少女が成長して博士号を取得するというサクセスストーリーという側面を持っていて、非常に面白いです。

 そんな本書の大きな魅力の一つが、作者のキリンへの愛が止まらないこと。その愛のあふれ方が多種多様で、それだけでもこちらが笑顔になってしまいます。

 「キリンが、好きだ。」(34頁)「キリンの姿かたちの奇妙さや穏やかなたたずまいが、昔からとても好きだった」(38頁)「標本が作りやすいところも、キリンの良いところだなと思う。」(27頁)(キリンという)「この素敵な名前、一体誰がつけたのだろうか?」(28頁)「『キリンの斜角筋ってこんなに発達してるの!?すごい!』と興奮し、思わず何枚も写真を撮ったくらいだ。」(113頁)

 かつて、これだけユニークにキリンへの愛を語った書籍があったでしょうか。

 本書には、このようにキリン愛にあふれる作者=キリン研究者の生活という見たことも聞いたこともないような話がたくさん詰まっています。例えば、こんな記述があります。

私にとってはキリンの解剖が最優先事項なので、訃報が届いたら予定は全てキャンセルする。「ごめん、キリンが死んじゃって……」、「すみません、キリンの解剖の予定が入ってしまって……」。その一言で全てを理解して許してくれる友人・知人には本当に感謝している。(16頁)

 この一段落だけでも分かるリアリティ、クオリティ。他にも、キリンの解剖のやり方など、他では決して知ることのできない体験談が詰まっています。

動物園に行ってみた感想

 話は変わりますが、書評を書くに当たって本書を読み返していたところ、無性にキリンに会いたくなってきたので近所の動物園に行ってきました。この本を思い返しつつ、ぼうっとしながらキリンの写真を撮っていたら、あっという間に數十分くらい経っていました。

 この本を読む前と読んだ後では、キリンに対する好感度がかなり上がっている自分に気づきましたね。

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 改めて見ても、首なっがいですねキリン。足も長くてすらっとしていて美しいです。

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 意識したことありませんでしたが、耳は白くて尖っていて可愛いです。体表面のコントラスト、茶色と白の組み合わせも良い感じですね。

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 白黒にすると、コントラストの違いがはっきりします。なんだか別の生き物を見ているみたいですね。

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 本書でメインとなっていた研究テーマは、キリンの8番目の"首の骨"。おそらく写真の真ん中あたりにある骨ですね。これに関する研究が、作者の博士論文になりました。

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 改めてキリンを動物園で見ていると、穏やかでゆったりとしていて、眺めていて落ち着きますね。餌をもしゃもしゃと食べている姿も可愛くて癒されました。

まとめ

 本書は、キリンの研究者になるサクセスストーリーという点でも興味深いのに加え、作者のキリンへの愛が随所にあふれていて、こちらも笑顔になってしまうような本です。実際に、この本を読んで動物園に行ってみて、自分の世界が少し広がったな、という感想を抱きました。

 とりあえず、ここ最近で読んだ書籍の中では一番おすすめなので、ぜひ読んでみてください。本記事をここまで読むくらい興味がある方であれば、間違いなく楽しめる書籍であると思います。

 最後に、本書の記述の中で最も好きな一節を引用して本稿を終えたいと思います。

そして、この本を読み終わったときに、今より少しだけキリンを好きになってもらえていたら、言うことはない。(5頁)

 あっぱれなまでの、キリンへの愛です。

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)