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葛飾北斎おすすめ作品10選─北斎の書いた波・富士山・龍等々

はじめに

 葛飾北斎と言えば、言わずと知れた有名画家です。そんな北斎は、数えきれないほど多くの優れた作品を残しています。

 今回は、その中でも個人的に好きでおすすめな作品10個について、紹介していきたいと思います。

作品10選

1. 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏

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 最初に紹介するのは、誰もが知っている北斎の神奈川沖浪裏。おそらく北斎の作品の中で一番有名な絵でしょう。ああ、いつもの波の絵ね、と思っている方もいらっしゃるかもしれません。でも皆さん、この絵をちゃんとしっかりとご覧になったことはありますか?

 左の大きな波はもちろんのこと、絵の右上の雲が波と共に画面全体のバランスを取っていることで、波の勢いもありますが構図が安定しているように見えます。

 また、船の上にいる人の小ささであったり、波しぶきの美しさであったり、何度見ても見飽きません。自分のPCの壁紙は、ここ数年ずっとこの神奈川沖浪裏ですが、それでも飽きないくらい、美しく奥深い作品です。

 余談ですが、Pierre Carreauさんという方が、波をハイスピードカメラで撮った写真が、北斎の描いた波と似ていると、話題になったことがありました。*1

http://www.thisiscolossal.com/wp-content/uploads/2015/02/Carreau2209.jpg

出典:New Photographs of Crashing Ocean Waves Frozen in Time by Pierre Carreau | Colossal

 この写真、上記の神奈川沖浪裏とどことなく似ていませんか?波のしぶきや、波に何本も縦筋があるように見えるところも。

 この一枚から見ても、北斎の優れた観察眼が分かります。 

2. 富嶽三十六景 尾州不二見原

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 2つめは、同じく富嶽三十六景から尾州不二見原。

 これ、すごく構図が面白い絵ですよね。職人が作っている桶の向こうに、富士山が見えるという。小さい富士山なのに、存在感はぴか一です。

 写真と比較した時に、絵画の良いところの1つは、絵画は構図を完璧に自分でコントロールできるところにあると思うのですけれど、その写真では絶対に表現できない構図の妙が、この作品には表れていますね。

 ちなみに、歌川広重がこの絵を参考に書いた絵が残されています。
「桶屋の富士」と広重さんの「うちわ絵」 葛飾北斎 「名所江戸百景 冨嶽三十六景 尾州不二見原」 WEDGE Infinity(ウェッジ)

3. 東海道名所一覧

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 3つ目は、鳥瞰図である東海道名所一覧です。この作品は、東海道にある名所を北斎が描いたもので、特に地図としての再現度は重視されていないみたいです。

 この図で細かく見える文字は、全て名所の名前を表しています。凄く細かなところまで描かれている作品ですね。

 子供たちがゲームのワールドマップを見てまだ見ぬ世界にわくわくするように、なかなか旅をすることができなかったこの当時の人々も北斎の鳥瞰図を見て、わくわくしていたのではないでしょうか。今見ても魅力的な作品ではありますが。

4. 百物語小はだ小平二

f:id:spaceplace:20180121184720j:plain:h450  百物語は、北斎富嶽三十六景を書いていた70歳前半に描かれた、怪談話です。*2本作品の図は妻と密通した友人に殺された後、2人の蚊帳に小平二が現れているところらしいです。*3

 部分部分にに残っている毛髪や筋肉、目玉。絵自体が怖いのはもちろんのこと、このエピソード自体も怖いですよね。

5. 北斎漫画

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 4つ目は、絵手本である北斎漫画です。この北斎漫画には、他の作品では見られないくらい多種多様の事物が描かれており、非常におすすめです。例えば、十二支であるとか、猫の絵なんかも描かれています。

 詳しくはこちらの記事をどうぞ。
spaceplace.hatenablog.jp

6. 富嶽百景

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 5つ目は、富嶽百景です。北斎が書いた富士山が様々に収められています。描かれている時代は神話の時代から北斎の時代まで、描かれる富士山の大きさも小さかったり、大きすぎて全体が見えなかったりと、千差万別な富士山が描かれています。

 同じ富士山の絵なのにも関わらず、その一つとして、飽きさせるような作品がないのが北斎のすごいところです。

 その中でも僕のお気に入りがこの作品です。雄々しい富士山と太陽と比して、穏やかな人々と犬。富士山と太陽の威光の下、平和に暮らしている姿が描写されているようで、心が温かくなります。

 本作の感想記事はこちら:
spaceplace.hatenablog.jp

7. 雷神図

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 6つ目は雷神図です。北斎が数え年で米寿の作品です。*4他の作品もそうですが、北斎の絵は年齢を経るごとに、どんどん魅力的になっていくようにも思えます。

 この絵、純粋にかっこいいですよね。荒々しい太い線と繊細な細い線で構成された雷神は、暗く赤く。背景の黒い雲らしきものが、雷神の威圧感を一層高めています。そして、画面に右上にある二本の赤い線が、画面に躍動感をもたらしています。

 ここまでかっこいい雷神図を、僕はこれまで見たことがありませんでした。

7. 酔余美人図

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 7番目は、酔余美人図です。よく見る北斎の絵は、風景画が多いようにも思えますが、北斎は多くの美人画も残していました。その当時から、北斎美人画は高い評価を受けていたそうです*5

 この絵は酔った芸妓が描かれています。この絵をみていると、普通の美人画ではあまり見られない、着物の太い筆遣いが印象に残りますよね。その一方で、この女性は細い線で描かれていて、繊細さ、優美さが表れています。 

9. 巌頭の鵜図

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 この絵では、空を見つめる鵜が描かれています。

 鵜の体毛の部分をよく見てみると、白い斑点がたくさん描かれているんですよね。始めてこの作品を見た時、まるで宇宙みたいじゃないか、と思いました。漆黒の体毛に浮かぶ星々の数々。そう思って見るとすごく広がりを感じます。

 ただ、画面全体に白い斑点が描かれているので、そういう意図ではなかったのでしょうけど。それにしても美しい一枚です。  

10. 富士越龍図

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 最後に紹介するのが、北斎の死ぬ三カ月前に描かれた富士越龍図です。死の直前に描かれたとは思えないくらい、端正で美しく、素敵で。最後の最後まで絵を追求し続けた北斎を象徴するような作品であると、僕は思います。

 本作品の中央部には、堂々として奇麗な富士山が描かれています。この記事でご紹介した作品の多くにも、富士山が登場していましたよね。

北斎の解説を見ていると、以下のような記述があります。

北斎にとって富士山は、大自然の象徴であり、超絶なるものの象徴であった。したがって、崇高なる神であり、超えるべき目標であった。(浅野秀剛監修「北斎決定版」4頁。)

 そして、富士山の上空を昇っているのが龍です。龍は北斎自身の心境の投影とされているそうです。*6 超えるべき目標を越えた自身を描いたとも思えるようなこの作品を描き出した北斎は、その時何を思っていたのでしょうか。

おすすめ書籍

本記事を見て、北斎の絵をもっと見たくなったという方は、以下の本がおすすめです。北斎の絵が300点収録されています。

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)


関連記事:
spaceplace.hatenablog.jp

spaceplace.hatenablog.jp

*1:詳細は以下の記事を参照。www.thisiscolossal.com

*2:浅野秀剛監修「北斎決定版」56頁。

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

*3:浅野秀剛監修「北斎決定版」57頁。

*4:浅野秀剛監修「北斎決定版」65頁。

*5:大久保純一「北斎」40頁。

北斎 HOKUSAI ジャパノロジー・コレクション (角川ソフィア文庫)

北斎 HOKUSAI ジャパノロジー・コレクション (角川ソフィア文庫)

*6:浅野秀剛監修「北斎決定版」47頁。