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五十嵐太郎「日本建築入門─近代と伝統」

作品情報

日本建築入門 (ちくま新書)

日本建築入門 (ちくま新書)

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

レビュー

 日本の伝統というものを考えるのは、いつも難しい。伝統というからには、昔から引き継いだものでなければならないが、その「昔」をいつと捉えるかによって、話が全く変わってくるからだ。

 1つ具体例を挙げよう。例えば、夫婦別姓に対する反対論として挙げられるのが、夫婦別姓は日本の伝統に反するというものだ。しかしながら、江戸時代には、庶民は苗字を公に名乗ることが許されなかったことを考えれば、江戸時代を「昔」と捉えれば、夫婦同姓を論じるまでもなく、一般人が苗字を名乗ることそのものが伝統に反すると言わなくてはならなくなる。

 このように、日本の伝統を考える上では注意しなければならないのだが、日本の伝統建築を考える際には、僕は漠然と「日本の伝統建築」というものがどこかに存在するような気がしていた。時間において普遍的な建物があったと勘違いをしていたのだ。

 この本を読むまでは。

 しかしながら、本書が描き出すのは、「日本の伝統建築」なるものは相対的なものに過ぎないということだ。屋根などの外形的な部分に着目した人がいれば、精神性に着目した人がいた。桂離宮をモデルとした人が居れば、縄文をモデルとした人も居た。そんな、数々の人の歩みが、本書では描かれている。

 建築においても、いつを「昔」と捉えるかは人それぞれであり、伝統とはある種恣意的なものであると再確認させられた。

 話は変わるが、本書を読んでいて面白かった点が2つあった。1つは、建築は思想に基づいて作られるものだということ。本書で取り上げられる主な建築は、どれも確固たる設計思想に基づくものであり、それが建築について考えたことも読んだことも、ほとんどなかった自分にとっては新鮮だった。

 もう1つは、岡本太郎の「太陽の塔」という作品そのもの。大阪万博の後に生まれた自分としては、「太陽の塔」は「太陽の塔」という完結した作品であって、不思議な作品だなと思うくらいであった。しかし、本書を読んで、「太陽の塔」は丹下の「大屋根」という作品に対峙する形で作られたということに衝撃を受けた。

 モダンな平屋根を突き破るように顔を出すエネルギッシュな「太陽の塔」。本書の言葉を借りれば、「縄文対弥生の構図」(181頁)。どの写真を見ても、その姿は衝撃的だった。遠近感をなくすような、巨大な「大屋根」と「太陽の塔」が、日常の世界を吹き飛ばしにかかっているように見えたのである。

 本書のタイトルにもある通り、本書はまだ日本建築の「入門」にすぎないらしい。もっと建築に興味をもたせるような、素敵な本であった。