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映画「メメント」感想ー最後のレナードの行動は合理的か?

作品情報

監督: クリストファー・ノーラン

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 以上のように考えれば、レナードはテディのカーナンバーをメモ書きする事で自らの生きる理由を作り出したとしても、ある種合理的だと言えるのではないでしょうか。

 しかし、これは特段変なことではないと私は思います。我々の記憶力も完璧なものではなく、自分のした行動を全て覚えられる訳ありません。例えば、先月のある日に何をしたかを詳細に、完璧に答えられる人は滅多にいません。飲み会に行った翌日に、何を話したかを完全に覚えている人もごくわずかしかいないでしょう。私たちとレナードの違いは相対的なものに過ぎないのです。であれば、私たちが日々の生活に意味があると信じるように、レナードが忘れてしまうはずの自己の行動に意味を見出したとしても、特段変なことではないのでしょう。

 この考え方は、ちょっと変だと思った方もいるかもしれません。どうせ1時間も経たないうちに全てを忘れてしまうなら、復讐しようがしまいが一緒なのですから、レナードの行動に意味はありません。であれば、レナードはカーナンバーをメモする必要はなく、全てを忘れて平穏な生活を送れば良いのではないかとも思えます。

 どんな行動をしたところで、その行動についての記憶を無くしてしまう事が分かっているからこそ、自己の行動・生存の意味が揺らいでいく。このセリフにはそんな恐れが現れています。それを乗り越えるために、自分の外に世界はそこにあると、レナードは自分に言い聞かせます。おそらく、自分が忘れても自分の行動は存在している世界を変えられるからこそ、自分の行動ひいては自分の生存にも意味があると、レナードは考えたのではないでしょうか。そして、レナードはその考えに沿って、レナードはわざとテディのカーナンバーをメモ書きし、将来の自分にテディの殺害を含めた全てを託し、世界を変えようとしたのでしょう。

自分の外に世界があると信じなければならない。思い出せなかったとしても、自分の行動に意味があると信じなければならない。目を閉じても、世界がまだそこにあると信じなければならない。世界がまだそこにあると俺は信じているのか?そこにあるのか?ある。人間は皆自分を思い出すための鏡が必要なんだ。それは俺も変わらない。(I have to believe in a world outside my own mind. I have to believe that my actions still have meaning, even if I can't remember them. I have to believe that when my eyes are closed, the world's still there. Do I believe the world's still there? Is it still out there?... Yeah. We all need mirrors to remind ourselves who we are. I'm no different.)

 最終シーンにおいてドライブしながらレナードは以下のように独白します。

 ただ、このような倒錯的な行動もある種合理的だと言えそうです。1つは、自分が大した理由もなく人を殺す殺人鬼にならないためだから。もう1つは、自分の生きる理由を作り出すためだから。

 本作は、このような演出が鍵となる作品でしたが、作品のストーリーそのものも面白かったです。当初は、前向性健忘のレナードがなぜ復讐を遂げる事ができたのかというサクセスストーリーとして見ていましたが、ナタリーにレナードが騙されるなど、途中から雲行きが段々怪しくなり。そして衝撃のラスト。まさか、レナードがすでに復讐を果たしており、テディを追い詰め殺す手がかりを自ら構築していたとは。その場でテディを殺せば済むところを、わざわざ未来の自分が幸福にテディを殺せるように、手掛かりだけ用意しておくのは、完全に倒錯していますね。

 この真新しい演出が、レナードの前向性健忘を上手く表しています。自分が行動する未来の事はわかっても、過去の事はわからない。作中で、モーテルの店主がレナードに対して、「先のことは分かるが何をしたかはわからない(Maybe you have an idea what you wanna do next, but you have no idea what you just did)」と語りかけますが、まさにこの状況を観客が追体験する訳です。確かなはずの過去が信用できず、以前会ったはずの人間が怪しく見える。今まで、博士の愛した数式など前向性健忘に関するフィクションを見てきましたが、本作が一番現実感があり、怖かったです。

 本作は、斬新な手法を使ったユニークな作品でしたね。カラーで紡がれる未来から過去へと遡るストーリーと、モノクロで語られる過去から未来へと進むストーリーが、映画の終盤で交錯する。モノクロからカラーへと段々と変わるシーンで全ての仕掛けが分かって、正直鳥肌が経ちました。

 本作の未来から過去に逆行するという演出が気に入ったので、このレビューも未来から過去に逆行する形で書いて行こうと思います。