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ドラマ「オクトパスの神秘: 海の賢者は語る」感想:歯ごたえのあるドキュメンタリー

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作品情報

ネットフリックスオリジナル作品

監督:ロジャー・ホロックス

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 自分の世界を持っている人と話すのはすごく楽しい。自分の知らない価値観・知識・感情。そのすべてが興味深く、その世界自体に関心を抱かなかったとしても心に強い印象が刻まれる。そのような世界観を持った並みの人物を仮に3つ星と評価するとするならば、本作の監督であるロジャー・ホロックスには30つ星を差し上げたくなった。

 純粋な映像技術だけでも、この監督のレベルが相当高いことは見て取れる。はっと息をのむ、美しい水中の森林。今まで見たことのない不可思議な世界。映像美だけでも相当に魅力的である。また、ヒロインとなるタコの生体の興味深さ。監督の熱気に少しブレイン・ウォッシングされるかのようにして、少しずつ彼女のことが気にかかるようになった。

 彼女の波乱万丈な生きざまを描き出した本作を見終わって、私はお寿司のことを考えていた。あんなにおいしいタコのお寿司。タコのお刺身。タコ焼き。その背後には、彼女がいるのだ。この監督は、日本に来ても絶対にタコの寿司だけは食べないのだろう。タコを食べない人生というのは、私には考えられない。

 そう、これだけの熱量を浴びても、私はそこまで彼女に感情移入しなかったのである。彼女がカニを捕食するシーンでは、かわいいカニは逃げ切れるかなと思ってはらはらと観ていた。サメが彼女を食べるシーンでは、サメが食べごたえのあるご飯にありつけて良かったなと思った。彼女も、サメも、カニも、魚も、同等に美しい。今後タコを食べることをやめようとは思わないが、今後生き物を食べるときには、それがどんなに小さな生き物であったとしても、なるべく残さないで食べようと思った。

 85分間の映像を見ても、このような薄っぺらい感情しか抱けない僕と違って、監督は、監督が抱いている世界は本物だった。曰く、

彼女のことばかり考えていた
海でも地上でも
とりつかれたようにね
常に様子が気になり会うのが待ちきれない

 まるで初めて恋という感情に気付いた乙女、少年が吐いたかの如き台詞である。彼女が困難に遭った時には本当に悲しそうな表情を浮かべる監督を見て、本当に世界は様々で広いんだなと思った(そして、タコへの愛を告白する夫の映像を見たであろう彼の奥さんに少し同情した。)。

 タコの賢さ、生命の美しさ、そして人間の頭の中の世界の多様さ。このすべてを同時に味合わせてくれた本作は、数多のドキュメンタリーの中でもトップクラスに歯ごたえのある作品だったと思う。

 タコだけに。