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恩田陸「私の家では何も起こらない」感想

作品情報

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、おとぎ話のようなホラーでした。1つ1つは怖い話なのですが、なぜかは分かりませんが非常に寓意的に感じました。

 表題作の「私の家では何も起こらない」は、タイトル含め雰囲気が好きですね。幽霊屋敷だと強弁する男と、そこに住む作家の女性の話。タイトル通り「私の家では」何も起こっていませんが、家の外で男がしっかりと事故に遭ってしまうあたりが、ブラックユーモアを感じさせますね。

 「私は風の音で目を覚ます」は、1つ目のお話を読んで嫌な予感を感じながら読みました。案の定、主人公の少女は食べられてしまいますが、主人公の「ですから私は満足です。(中略)ガラス壜の中で永遠に平和な時を過ごせるのですから」という平穏な語り口が、物語の悲惨さを奪ってしまっているように感じました。乙一さんの「夏と花火と私の死体」も死体の少女が語り手となっていますが、本作の少女はそちらよりもずっと穏やかで、一層死体っぽさを感じさせます。

 「我々は失敗しつつある」は、不思議なお話でした。幽霊になろうと努力する「我々」。ただ、失敗を繰り返しているという話ですが、結局それが何を意味するのかは、はっきりと分からないままでした。

 本書で一番不気味だったのは、「あたしたちは互いの影を踏む」でした。仲が良い姉妹。しかし、屋敷の中では怪奇現象が起きていて最後には互いを殺してしまうという。明らかに幽霊か何かの仕業で、姉妹のどちらかの気が狂ってしまった感じがしますよね。読んでいて、「私の家では何も起こらない」の「死者たちはなんと優しいことだろう(中略)ひっそりと佇んでいるだけ」(26頁)という発言と真逆じゃないかと思っていました。

 「僕の可愛いお気に入り」あたりになってくると、主人公の狂気が感じられてきて全く感情移入できなくなります。老人をオーブンに突っ込んで殺す。そんな少年が最後に自殺したところで、因果応報だよなあとしか思えませんでした。

 「奴らは夜に這ってくる」は、典型的なホラーだなと感じました。夜中に這ってくるものなどいないと思わせておいて、ラストで落としにかかる感じ。ザ・ホラーという感じの終わり方でしたね。

 「素敵なあなたに」については、これはハッピーエンドなのかと悩みました。恐ろしい家に住んでしまって結局死んでしまう「私」。でも、「私」は「素敵なあなた」に会うことができました。爽やかな終わりですが、結局これ何も状況が好転してませんねという終わり方でしたね。

 「俺と彼らと彼女たち」は本作で一番ほっこりした一作でしたね。最終的に、生者と死者たちは仲良く暮らしました。めでたしめでたし、と言いたくなるような作品でした。しかし、そこから「私の家へようこそ」で落としにかかるあたりが憎いですね。「世界はみなあたしたちになる」(186頁)という発言の恐ろしさ。

 最後の「附記・われらの時代」は、これまでのお話がフィクションと安心させておいた上で、語り手が誰だったのか、このお話が何だったのか結局よく分からないまま終わります。それが、不思議な読後感を残していきますね。