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宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」感想:衝撃のラスト2行

作品情報

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)


※以下は本作のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 世の中には、「衝撃の一行」と褒めそやされる作品がある。ミステリ作家の綾辻行人のデビュー作がその典型例だろう。最後のどんでん返し。たった一行であるにもかかわらず、それによって物語全体が違った意味を帯びる。これに対し、宮沢賢治による本作は、「衝撃のラスト二行」と言うに相応しい作品だった。

 物語そのものは、ラストに至るまでシンプルである。毒もみ禁止令が出された村で、毒もみによる漁が行われる。読者の想像通り、毒もみを使っていたのは署長であった。本作のタイトルが「毒もみのすきな署長さん」という時点で、宮沢賢治自身も犯人が署長であることを隠そうとはしていない。

 そんな、ある種平凡とも言っても良い本作の評価をガラリと変えるのが、ラスト二行であると感じた。

 死刑執行直前の署長は言う。「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」

 通常の勧善懲悪の物語であれば、署長は死刑直前になって泣き叫び、己のしたことを悔いるものである。しかし、この署長は全く悪びれもしない。己が地獄に落ちることを理解しながらも、何らの悔いも後悔もない。

 ここに宮沢賢治が仕込んだ毒の1つがある。悪人は悪人のままで、死刑を受けようが罰を受けようが気にも止めない。現実世界の悪事や悪人の生き様を、鋭く皮肉っているように感じた。現在、日本の元受刑者の約半数が再び犯罪を犯していることは*1、この状況と一部パラレルに捉えられるように思った。

 そして、ラスト一行。「みんなはすっかり感服しました。」

 町民たちでさえ、もはや署長の悪事を責め立てるだけの存在とはなっていない。署長のこの一本気の悪に、感心してしまっているのである。

 これもまた、宮沢賢治が仕込んだ毒の1つだと感じた。時に人々は、世紀の大泥棒などと言って、犯罪行為を讃え、褒める。時に人々は、清掃行為など善良な市民の小さな善き行いなど気にも止めない一方で、悪行は礼賛するのだ。このような悪人を讃える心。それが良いか悪いかは別として、皮肉の対象になり得ることは間違いあるまい。

 今まで述べてきたように、本作はラスト二行が物語のイメージを変える、衝撃的な作品だった。宮沢賢治による複数の毒を含んだ作品。本作が「毒もみ」をテーマにした作品であるのは、偶然ではないと感じた。