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「戦場のピアニスト」ー常にピアニストたり得たピアニスト。

作品情報

監督: ロマン・ポランスキー

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、戦場のピアニストというタイトルの名の通り、非常に重苦しく憂鬱な映画でした。監督自身がナチスドイツから迫害されていた経験があったこともあってか、非常に現実感のある恐ろしい映像が続いていましたね。徐々に加速していくユダヤ人への迫害。大した理由もなく殺されていく人々。路上に倒れている人を放置しながら行き交う群衆は、もはや人が単なるモノとして扱われ始めている事を明瞭に表していました。

 その中でも一番恐ろしかったのは、ユダヤ人が列車で運ばれる前に一箇所に集められたシーンです。わずかな敷地に大量のユダヤ人が集められ、そのユダヤ人を暴力で従わせているのもユダヤ人。あたりに響くのは、"Why did I do it"と自分のやった事を悔やむ母親。どこを見回しても希望などなく、人々は諦めの境地に達している。このような恐ろしい雰囲気が如実に伝わってきました。

 シュピルマンは、そんな恐ろしい環境からうまく逃げ出すことに成功する訳ですが、本当の試練はそこから始まったように思えます。どこに行っても安住の地などはありません。アニヤが用意してくれた住居で皿を割って追い出されることになったシーンなど、音を紡ぐ職業であるピアニストであるにも関わらず、音を出せば災厄が訪れる状況に陥ったというのが非常にシニカルでしたね。

 ただ、そんなシュピルマンを救ったのもまた音楽であったように思えます。後半になって、彼が頻繁に架空の鍵盤を弾き始めるようになったのは、ピアノが彼の心の支えになっていた事を表しているのではないでしょうか。ちなみに、小さい頃からピアノを弾いていた僕も、時たま架空の鍵盤を弾くことがあります。ピアノの経験者であればわかる方もいると思いますが、そうすると実際に頭の中で音が流れたりすることもあるんですよね*1。 こんな苦しい状況にあっても、シュピルマンはピアノの事を忘れておらず、ピアノが彼の支えだったのでしょう。

 また、ドイツ人将校と出会った時に彼を救ったのもまた、ピアノの音楽でしたね。歩きすらフラフラで、最初はなかなか指が動かないのに、徐々に本来の演奏を取り戻し美しい音楽を奏でられるようになったシーンは感動しました。ピアニストの誇りと力強さを感じたシーンでした。

 なお、全然ピアノを練習していなかったのに、なんでシュピルマンはあんなにピアノを弾けるんだと疑問に思う方もいるかもしれません。ですが、これは全然ありえない話ではありません。シュピルマンは、架空のピアノを弾いて、ある種のイメージトレーニングをしていたと考えられますが、このイメージトレーニングは実際に指を動かす能力の向上に役立つのです*2。このようなイメージトレーニングを頻繁に行なっていたからこそ、シュピルマンの演奏能力が完全に衰えてしまうことはなかったのでしょう。

 本作は、ユダヤ人の迫害をリアルな作品であると共に、常にピアニストたり得た1人のピアニストの物語として、非常に感動的でした。

関連記事>>>古屋晋一「ピアニストの脳を科学する」レビュー

*1:ピアニストが頭の中で演奏のイメージを思い描くと実際に演奏している時と同じ脳のネットワークが働くことがあるそうです。「ピアニストの脳を科学する」24-25頁

ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム

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*2:「ピアニストの脳を科学する」22-23頁