作品情報
- 作者: 三部けい
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2013/05/18
- メディア: Kindle版
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なお、本作はアニメ・映画化されました。
評価
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作は、かなり面白いタイムリープものの物語でした。漫画だと、時に途中で矛盾や停滞が起きてしまいますが、本作はそういう事がなく非常にまとまった作品だったと思います。一読目ではいくつか違和感を感じた点があったのですが、全巻を読破した後で読み返してみるとちゃんと説明がなされていました。
初読時の違和感
初読時に違和感があったのは以下の2点です。1つ目は連続誘拐殺人事件の犯人であるはずの八代が雛月を助けたこと。2つ目は、藤沼と雛月が結ばれなくても当事者が割と平然としていたことです。
犯人であるはずの八代が雛月を助けたこと
まず、犯人が八代であった事は、しっかりと伏線が貼られていました。例えば、澤田のプロファイルに合致するところとか、この1日に事件に関わる大きなヒントがあったと言われていた時にしっかりと八代が登場していたこととか、やたらと八代に対する描写がしっかりしていたところとか。これらの事を総合すれば、犯人は八代であるという事は想定はできました。
しかしながら、八代が犯人だとすると、なぜ雛月を積極的に助けるような振る舞いをしていたのかが不明でした。雛月は自分の狙っている相手ですから、下手に藤沼の行動を支援しないほうが八代にとって利益になります。犯人が自分にとって不利益な行動をとるわけがないと思っていたからこそ、八代犯人説は自分の中でもないなと結論づけました。結果的に、八代が犯人と明かされて、それはありかなと違和感を感じたものです。
ですが、再読してこれはおかしい点ではないことに気づきました。まず、八代は何がなんでも雛月を殺さねばならない訳ではなく、また藤沼を敵と捉えている訳ではないのですから、頑張ってまで藤沼の動きを妨害する必要はありません。また、下手に藤沼の動きを妨害した方が、教師としての自分の地位が傷つく恐れもあります。そう考えれば、藤沼の行動を支援する方が合理的です。
また、犯人は一度失敗しただけでターゲットとなる相手を変える描写があったことからも、犯人が慎重な性格である事が伺えます。このことからすれば、慎重な犯人=八代が雛月を助けたところで特に違和感はありません。
藤沼と雛月が結ばれなくても当事者が割と平然としていたこと
次に違和感があったのが、藤沼と雛月はあんなに良いカップル出会ったのにも関わらず、藤沼が再び目覚めて雛月が会い、結婚した雛月と藤沼が結ばれない事が明らかになっていても、両者が割と平然としていた事です。
ただ、これもしっかりとした根拠があるものではありませんでした。
まず、雛月側からしてみれば、二人が付き合っていたのも随分と昔な訳ですし、その長い期間の間で藤沼に対する思いを断ち切る事ができたからこそ、平然としていたのでしょう。逆に、再び会話を交わせる保証もない植物状態の人間に対して、十数年も恋心を抱き続ける方が難しいと言えそうです。
次に、藤沼側からすれば、雛月に対して恋愛感情は特になかったため、平然としており、雛月が結婚して子供がいる事を素直に祝福できたのでしょう。そもそも当初から藤沼に雛月に対する恋愛感情はなく、近づいたのはあくまで彼女を助けるためです。そして、雛月と良い雰囲気になる事もありましたが、藤沼は自分が29歳である事を常に自覚していた訳ですから、心のそこから彼女を好きになる事はなかったのでしょう。これは、雛月がおばあちゃんの家に住むことになって転校した後に、雛月に会いに行こうとしたり手紙を交わそうともしなかったことから明らかです。
なお、途中で藤沼が雛月と一緒にいるときにドキドキするシーンがありますが、これは単純に藤沼に恋愛耐性がなく、場の空気に酔っただけだと考えられます。
どちらかというと、物語の中で一貫して藤沼は愛梨の事を想っていたと言えるでしょう。藤沼と愛梨は心のそこから信頼できる関係になっており、藤沼は事あるごとに彼女の事を回想していた訳ですしね。このことからすれば、愛梨と再び出会うラストシーンは、一番ハッピーな終わり形だったのでしょう。
ストーリーについて
本作のストーリーは、ミステリものとしても、ヒューマンドラマとしても非常に面白いものでした。前者について言えば犯人が八代だったことについて、前述の通りきちんと伏線が貼られており、それが適切に回収されていたため、読んでいて気持ち良かったです。後者について言えば、物語の終わり方もよかったですね。藤沼が雛月ではなく、ずっと想い続けていた愛梨と人生を歩む事が示唆される部分がとても良かったです。
「勇気ある行動の結末が悲劇であっていいはずがない」
本作の終わりは、まさにそれを体現した素敵なものでしたね。