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新川直司「四月は君の嘘」第8~11巻感想:また、春が来る。

作品情報

 なお、本作はアニメ化映画化されました。

評価

☆☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は全巻のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、最後のかをりの手紙のシーンで切なさが止まらなくて、思わず涙してしまうような切なくて美しい物語でした。あまりに素敵なお話だったので、全巻読んだ後にそのまま最初から読み直しました。そこで、今回は全巻の内容を踏まえた上で、公生とかをりの関係を中心に、8~11巻の感想を書いていきたいと思います。

8巻

 入院のため、しばらくかをりがフェードアウト。なかなか公生とかをりは会いません。携帯では強がっていても、徐々に悪くなっているかをりの病状。

 そんな中、下校しようとする公生とかをりは、再び出会います。嬉しそうな、かをりの表情が良いですよね。久しぶりの二人のデート。何にも不安を感じさせないそぶりをしていたかをりですが、これが最後の休日になることは覚悟していたんでしょう。

 公生とかをりが、夜の学校に戻るシーン。最後の場所としてかをりが学校を選んだのは、公生や他のみんなとの色々な思い出が詰まっている場所だったからでしょうね。死んでも忘れないと、かをりに伝える公生。「うん やっぱり君でよかった」と伝えるかをり。好きになったのが君で良かったと、言っているように思えました。

 「このまま時間が止まっちゃえって思うくらい 素敵な時間だった ありがとう」

 自転車の上でかをりは呟きます。そして時間が止まらないことなんて、分かっているからこその、涙。

 後日、病室で、かをりは公生に怒ります。

12月にはコンクールが始まるんだよ
まだ時間があると思ってんの!?
あっという間にー

 突然の涙。あっという間に、コンクールが始まる。時間が経つのは一瞬。自分の残された時間は、わずか。

 「あたしと心中しない?」

 ぐちゃぐちゃな思いの中で繰り出されたのは、死を覚悟したいちご同盟の彼女と自分を重ね合わせた一言でした。

9巻

 病室で、かをりが公生に語りかけるシーン。

 「こんななら 会わなければよかったね」(37頁)

 かをりが、どんなに公生を好きか。全編を通して見れば、それが痛いほど伝わってきます。それでも、強がった笑顔で、公正にそんなことを言わなければならない、かをり。心が痛いです。

昔に戻るだけだよ
忘れちゃえばいいんだよ リセットボタンを押すみたいに(中略)
そしたら心が軽くなる
覚えてたって 意味ないもん(43頁)

 病が、かをりの心を蝕みます。辛そうな公生なんか見たくない。それなら、自分なんて忘れて欲しい。相手のことだけを思い遣る、純粋な愛情と絶望。

 そんなかをりに対して突っかかる公生。カヌレを食べる公生の姿が、かをりを笑わせます。大変なとき、くじけそうな時に、いつも支えてくれるのは公生でした。

 舞台は、学園祭へと移ります。

 「エロイムエッサイム エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」

 かをりが言っていた呪文から始まる、公生と凪の演奏。その音楽が、病室のかをりを動かします。そして、今度は、公生によって、かをりが音楽を取り戻すのです。この二人だからこその支えあう関係ですね。

 学園祭が終わって、後日病院に行った公生が見つけたのは、トゥインクルトゥインクルリトルスターと歌うかをり。公生の星が戻ってきた瞬間です。

 「君は王女様じゃないよ」「僕はラヴェルなんて絶対弾かない」公生はかをりに語りかけます。ラヴェル作の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を意識した言葉。同作は、かをりが読んでいたいちご同盟で主人公が弾く曲でもあります。

亡き王女のためのパヴァーヌ

亡き王女のためのパヴァーヌ

 君は死なない。僕と一緒に演奏するのだという、公生のまっすぐな思いが伝わってきます。そして、全編を読むと、それが叶わぬことを知っているからこそ、儚く、美しいシーンです。

10巻

 病室で公生のピアノの練習を聞くかをり。いつもの二人に関係が戻ったことを象徴するシーンですね。

 「有馬くんの一生懸命な姿が かをりの灰色だった心をーー色付けてくれたんだ」

 そう公生に話しかけるかをりの父。かをりによって色づいた公生の音楽が、かをりの世界に彩らせたのです。

 コンクールが近づいて、徐々にかをりは公生を遠ざけ始めます。大事な時期に、倒れた姿を見せて公生を動揺させたくはない。それでも、電話でも良いから公生の声は聞きたいかをり。揺れ動く心。そして、病がかをりを襲います。

11巻

 病院の屋上。紙袋の中のカヌレ。ふと考えるかをり。

私が無様にあがくのも 君のせい
"生きること"に執着するのも 君のせい
君が私にー君といる時間への未練をくれた

 いかにかをりにとって公生が大事な存在か分かります。それでも、こんな状況下でも、かをりは公生へ自分の思いを伝えられないんですよね。自分の恋が叶わぬ恋だと分かっているからこそ。コンクール前の公生に負担をかけたくないからこそ。

 かをりは公生をまた支えます。「ほら 奇跡なんてすぐ起こっちゃう」と。でも、心はぐちゃぐちゃで。「私を一人にしないで」と公生にすがってしまいます。もう、強がりも通せないほどに、死への恐怖がかをりを捕らえます。

 この後、かをりは公生への手紙を書いているんですよね。絶望に飲み込まれそうになりながらも、彼女は最後まで前向きに、まっすぐ公生のことを想っていたことが、残された手紙から分かります。この手紙は、おそらく、手術で自分が死んだら公生に渡して欲しいと、両親に託したのでしょう。

 コンクール当日。最悪のコンディション。それでも公生は舞台へと上がります。母が死んだ時と同じ、最愛の人を失う苦しみ。以前までだったら、その苦しみに負けて、とても演奏をすることなんてできなかったでしょう。でも。

 「悲しくても ボロボロでも どん底にいても 弾かなきゃダメなの」

 かをりの言葉が、どん底の公生を救います。今度は、かをりが公生の中に生きています。かをりと一緒に過ごした時間が、忘れられない光景が、公生の演奏に命を吹き込みます。

 演奏が終わって、かをりとの別れ。「さよなら」と、公生は告げます。

 死んだかをりからの手紙。やっと素直にさらけ出すことができた思い。「君が好きです」「好きです」「好きです」返事を聞くことができないことは分かっていても、自分の思いをどうしても伝えたかったのでしょう。ずっと覚えていて欲しかったのでしょう。自分の存在が、公生の中で生きていて欲しかったのでしょう。

 かをりからの手紙を読み終える公生。一年が過ぎ、また春がやってきます。かをりのいない春が。

 四月の君の嘘から始まった物語が、ここに幕を閉じるのです。

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