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映画「そして父になる」感想:襟を正さずにはいられない作品

作品情報

そして父になる

そして父になる

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、父親になることを真正面から取り上げる内容で、映画を見た後にはずっしりとした想いを受け取ることができました。「そして父になる」というタイトルにも現れているように、子が生まれたから父になるのではなく、人は行動によって父になっていくのだというメッセージは、僕の心にとても響きました。

 父になりきれない野々宮良多と、父としての役割を十分に果たしている斎木雄大の対比が、そのメッセージを効果的に伝えていますよね。斎木雄大のように、そして終盤の野々宮良多のように、子供と同じ時間を過ごし真正面から向き合う。それこそが、「父になる」ための条件なのだと、本作は語りかけているように思いました。

 本作は、本作の取り違えをどう解決するか、あえて結論を出さない終わり方が良かったです。物語の終盤、野々宮良多が慶多を追いかけながら会話するシーンで、野々宮良多が父になったことが示唆された後、物語は急激に幕を閉じます。取り違えの解決という点については、「交換」をやめるのか、それとも「交換」したままにするのか、本作は明確な答えを出さないままでした。

 「交換」すべきなのか否か。あるいは、大事なのは血の繋がりなのか、それとも一緒に過ごした時間なのか。明確にどちらを優先すべきとうものではないでしょう。例えば、赤ちゃんの取り違えが判明したのが、取り違えから1週間であれば、赤ちゃんを元の家族に戻すというのが常識的な結論になるでしょう。しかし、判明したのが1ヶ月後なら、数年後なら、あるいは6年後なら?それらの場合に、子供を本来の親の元に戻すべき/戻さないべきなのでしょうか?結局のところ、判断は事例ごとの判断にならざるを得ず、本作の状況において絶対的な正解など存在しないように思えます。また、取り違えられた二人も、将来的に「交換」されて良かったと考えないとも限りませんし。だからこそ、安易にどちらかが良いと決めつけてもう一方の選択を否定するのではなく、あえてぼかしたままにしているのが、考えさせる終わり方で良かったです。また、野々宮良多が父になることを描いた後に、潔く映画を収めているという点でも、好感が持てました。

 また、本作は、主演の野々宮良多役の福山雅治さんが本当に良かったです。親として最低限のことはしているつもりだけれど、全然子供のことが見えていない、家庭よりも仕事をいつも優先してしまう夫を、すごく上手に演じていました。少し憎たらしく思えたほどです。

 こんな野々宮良多を、単に悪い奴だと断罪することができる人なら、落ち着いて映画を見ることができたでしょう。しかし、自分は、将来的に忙しい職業に就くことになる以上、こういう親になる可能性がない訳でもないと、身につまされる思いで映画を鑑賞していました。

 野々宮良多が悪いと思うシーンがなかった訳ではありません。例えば、法やら金やらを使って子供を両方引き取ろうとするとか、発想が完全に悪役です。他にも、奥さんとコミュニケーションが取れていなかったり、子供の成長に全然気づかなかったりと、責めることのできる部分はいくつもあったでしょう。ただ、そういう悪いところって、客観的に見ている第三者だから気づけることだとも思うんですよね。

 そして、本作であれば「取り違え」という強制的にに親としてのあり方を問われるイベントがあった訳ですが、通常の人生ではそういう機会はなかなかないでしょう。そういう人生の中で、自分が漫然と仕事を家庭より優先しないこともありえないこともないように思いました。

 本作は、そういう意味で襟を正さずにはいられないような作品でした。