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円城塔「世界でもっとも深い迷宮」─書くことと書かれることと

作品情報

 本作は、リスを実装すると同様、Kindleの作品です。Amazon Prime会員であれば、無料で読めます。

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

Uの生成エンジン=作家の死

 物語の主人公は、あなた=ジョンです。すなわち、本書はあなたのための物語、ということになります。そして、あなたは、ネットゲームのような世界をプレイヤーとして旅することとなります。

 そして、「U」とは、「無数のワールドから構成された迷宮で、ユニバースの頭文字からそう呼ばれ」ます。そして、Uはもとはゲームブックである以上、作家が存在します。そんな作家=Uの生成エンジンは、魔王の姿を借りて、物語の途中で語り出すのです。

お前たちがどうやってここまでたどりついたのかは聞かぬ。わたしはそうした細部にいちいちつきあうことに疲れてしまった。そう、わたしは疲れている──疲れ切っているといってもよいだろう。

 ここで、Uの作家は、物語の詳細を延々と描き続けることに疲れてしまったと言っているようにも思えます。そして、この物語の作家であるからこそ、「わたしは事実上、あらゆる願いを叶えることができる」と言ったのでしょう。

 物語の作家が死ぬことにより描写が簡単になりました。なんでUを生成するエンジンを倒したのに、物語がまだ続いているのだろうかと不思議に思いましたが、プレイヤー自身が迷宮=物語を生成できるようになったからではないかと思いました。つまり、生成エンジン=魔王が死んだ後の描写は、「ジョン(あなた)」による描写だということではないでしょうか。

ラストシーンの意味について

 物語の終盤で、魔王が残したカードを合成します。魔王=Uの生成エンジンが残したカードですから、どんなカード=「劇的な物語の断片」を結びつける種類の物語である、ということなのでしょうか。そして、物語を合成することによって生じた物語で、あなたはUと同調し、あなたはUとなるのです。まさに、作中の「まるで結末が複数あるかのようにみえるお話」と本書はなるのです。

 最後のシーンを読んで感じたのは、本書の構造はオブ・ザ・ベースボールと同様ではないかとも思いました。設定された話者=物語を書く存在「未来の俺又はU」と、物語に書かれる存在「現在の俺又はわたし」が同一であると。私の行動=書かれ方により書き方は変わり、書き方によって私の行動=書かれ方が変わる、と。そう考えると、本書もまた、円城塔さんが追及するテーマを扱った一作である、ということが言えるかもしれませんね。

 そして、書くということと書かれることが同一という原理に従った物語という意味では、本書もオブザベースボールも同一ですが、「話者」が誰であるかということによって、物語自体が変わって何かが描かれるかも変わるのではないかと感じました。

 なお、本書のほかにもKindleでは円城塔さんの「リスを実装する」と言う作品も配信しているので、こちらもお読みになると楽しいかと思います。

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